「今さら何を言ったって、もう遅いよ」 俺は水をぐいと飲んで、大きなため息をついた。 「あんなにいた観客の中で、俺の名前を呼んでたの、たったひとりだよ?」 「そのひとりのためでは、いけないのですか?」 「え?」 「ひとりでも、あなたを待っているファンがいる。素晴らしいことです」 「どうせやめるのなら、その前にもう一度、あがいてみるのも悪くないですわね」 彼らはたたみ掛けるように交互に言った。