その日、女はコーヒーを飲んで、俺に礼を言うと、すぐに帰った。 会話らしい会話もなく無言ですするコーヒーは、ひどい味だった。 帰り際、玄関で、 「送ろうか」 と一応言ってみたが、彼女は、 「平気、私の家、駅から近いし」 と少しバツが悪そうに笑った。 「じゃあ、もうあんなところで寝ないように」 と見送ったのが最後の会話…― になるはずだった。