【雅翔】




君は咲羅のことを何もわかっていない

…正直、俺は咲羅と君が付き合うことに不安を感じている

早急に咲羅と別れてもらいたい


そう言われたのは咲羅の家に向かう数十分前

学校の裏庭で


「…久しぶりに靴箱に手紙が入ってたと思ったら…。君、篠田くん…だよね」

「敬語なんて使わなくていい。どうせ猫被ってるんだろ?」

「………なんで?」

「疑問を疑問で返す…か、それは肯定と受け取るけど。なんでかって…そんなの簡単だよ」


篠田は俺を睨みつけ

そしてうすく笑った


「咲羅と付き合ってるからだよ」

「……咲羅と付き合ってるからって僕が猫被ってる理由にはならないと思うんだけど…」


篠田の言葉の意味を少し考え

墓穴を掘らないよう慎重に言葉を選んで発言する

たしか篠田も頭がいい

無駄に繕って自滅するより、真実を隠し答えられる質問だけに最小限の言葉で答えるほうが得策だ


「…まだ隠し通す気でいるの?」

「隠すことなんてないからだよ、篠田君」

「まあいいや。何でって聞いたけど、少し考えたら誰でもわかるよ。君、咲羅が嫌いなタイプだもん」


…息が出来なかった

一瞬だったけれど、俺には何十秒にも感じられた

咲羅が嫌いなタイプ

そうだ、俺は最初咲羅に嫌われていた

嫌われていたんだ


「顔も良くて、頭も良くて、運動もできて、大企業の子息、しかも誰に対しても分け隔てなく優しいときたもんだ。普通の女の子は放ってはおかないだろう」

「……」

「咲羅は、寂しがりやなんだ。怖がりなんだ。強がっているんだ。だから、自分を大事に思ってくれて、離れないで、気を許せる人じゃないと付き合ったりなんてするはずない」


篠田は咲羅のことが好きだ

確実に

アイツはそのことを隠そうともせずに俺に話し掛けてきた

咲羅への下心を捨てきれていないから、俺に当てつけか?

とでもいえばこいつは引くだろうか…

…むしろ清々しいまでに「そうだ」と言い切るだろう