【雅翔】




「はぁー、怖かった」

「藤さんって、やっぱ怖いな」

「でも怒ったの久しぶりにみたよ。まあ会ったのも久しぶりだけど」


ベッドに沈むように倒れ込む咲羅

枕脇にあった熊のぬいぐるみを抱きしめる


「落ち着くぅー」


スリスリと顔を熊の胸に埋める

確か名前はシュウだったような

まあ名前なんて何でもいい

そもそも何故抱き着くのが俺じゃなくて熊なんだ


「咲羅」

「んー?って、ちょっと!シュウ返して!」

「やだ。抱き着くなら俺」

「ぬいぐるみにヤキモチ妬くな!」

「ヤキモチ妬いて何が悪い。いいから俺に抱き着きなさい」

「何それ…」

「何?俺じゃ不満なわけ?」

「そうじゃないけどさー」


渋々ながら俺に抱き着く咲羅

なんか猫みたいだ


「雅翔、俺とおんなじ匂いだ」

「そりゃあそうだ」

「なんか、嬉しい」


頬を染めて俺の胸に顔を埋める咲羅

え、何この生き物

可愛すぎるだろ


「一緒だ…。お揃いだ…」

「…咲羅ってお揃いとかが好きなの?」


ていうか女の大半は好きなような


「いや?ただ雅翔と一緒だから嬉しいだけ」

「…どういうこと?」

「なんか、家族みたいだなって」

「…えっと、つまり、その」


…夫婦ってことだよな…?

な、なんか照れる


「将来はずっと一緒の匂いがいいな」

「なに?プロポーズ?」

「それは雅翔がしてよ。俺は、願望を言っただけ」

「願望…。じゃあ俺も願望言うわ」

「何なに?」

「咲羅がずっと俺の傍にいてくれればいいのに」

「…いるよ?」

「わかってるよ。願望だってば」

「そっか、じゃあ雅翔が俺以外の女を好きになりませんように」

「ならねぇよ」

「ほんと?」

「ほんと」


ぎゅうっとさっきよりも強く俺に抱き着いた

愛しいなぁ

ぽそっと「嬉しい」と聞こえた


「何?なんか言った?」

「言ってない」

「ふーん、俺も嬉しいよ」

「聞こえてたんじゃん!」

「え、何のこと?」

「白々しい」


わざと聞き返して

わざと言う

それに反応する咲羅はいじっていて飽きない

というか楽しい


『咲羅がずっと俺の傍にいてくれればいいのに』


本当にそうだったらどんなに嬉しいか