「……杏、着いたみたい」
「えっ……あ」
窓から外を見ると、すぐ前にわたしの家があった。
先輩が、ゆっくりと抱きしめていた腕を解く。
少しだけ……ほんとうに少しだけ、寂しいと思ってしまったのは、どうしてだろう……。
「それじゃあね、また明日」
「はい……」
「そんな寂しそうな顔しないで。帰れないだろ」
「し、してませんっ……!」
「ははっ」と楽しそうに笑いながらわたしの頭を撫でてくる先輩は、いつも通りに戻っていた。
「ふっ、じゃあね、バイバイ」
先輩に手を振って、自分の家へと少し駆け足で帰る。
玄関の扉を開けて、急いで家へと入った。
その場にしゃがみこんで、心臓の辺りをぎゅっと抑える。
「どうしてわたし……こんなにドキドキ、してるんだろうっ……」
呟いた声は、静寂に溶けるように消えた。