ダメだ……話にならない……。
「とにかく、俺と杏は恋人同士で、俺は杏が好きだからキスもする」
やけに真剣な表情でそう言って、唐突に抱きしめてきた先輩。
「ちょっと……先輩っ……「ほんとに好き」
な、に……?
「せん、ぱい……?」
耳元で、囁かれた言葉。
その声色は、嘘をついているようには思えなくて、わたしはごくりと息を飲んだ。
「……すげー好き」
「……〜っ」
どうして、そんな声で……
さっきまであんなに、ニヤニヤした顔きてたのに……急にしおらしくなって……調子、狂っちゃう……。
どうすればいいかわからず、抱きしめ返すこともなく、ただ、力強く抱きしめてくる先輩を受け入れた。
ゆっくりと、走っていた車が停車する。