……っ。
もう、わかんなくなる。
映画が怖くて、心臓がドキドキ騒いでるのか、先輩に、ドキドキしてるのかーー……。
「杏、もう出ようか。立てる?」
怖くて一向に顔が上げられないわたしに、先輩の優しい声が降ってくる。
た、立てっ……なぃ。
情けないけれど足が竦んでしまって、わたしは何度も首を左右に振ってみせた。
「ん、じゃあ俺の首に手回して」
言われた通りに手を伸ばすと、先輩がわたしを抱えて立ち上がる。
所謂お姫様だっこの体勢で、わたしたちは真っ暗なシアターから出た。
映画のBGMが、大きな音を響かせている中、わたしの耳には、先輩のドキドキという大きな心臓の音が届いていたーーー。
* * * * *
「杏、もう平気だから、怖がらないで」

