黙って見つめ返すと、突然頰に会長さんの唇が触れた。
ほ、頬っぺにキス、されたっ……!
「か、からかうの、やめて、くださいっ……」
「ごめん、あんまりにも可愛いからいじめたくなっちゃって」
「なに、言って…意味わからないです……」
やっぱり悪気がなさそうで、私は頬を膨らまし怒っていますとアピールする。
「ふっ、杏はわからなくていーよ」
もう、意味がわからないよ……っ。
会長さんの態度に困り果てながら、先ほどから気になっていたことが一つ。
「あの、どうして私の名前、」
会長さんはさっきから私のことを名前で呼んでいるけど、私が名乗った記憶はない。
それに、会長さんとこうして話すのは初めてで……私の名前を知っているはずがないのに。
会長さんみたいな有名な人が、私の存在を知っていたとも思えないし……どうしてなんだろう?
じーっと見つめると、一瞬困惑した表情を合間見せた会長さんは、うなじを隠すように首に手を当て視線を下にやった。

