違う……そうじゃ、なくて……
「……」
口を閉ざしたまま、首だけを左右に振った。
もう……疑ってなんて、ない。
先輩が、本当に好きだと言ってくれてることは……今は疑ってない。
ただ、理由がわからなくて……困っているだけなんだ。
「……なんで杏って、そんな可愛いの?」
「はぁ……」という溜息と共に、先輩の腕に力が込められた。
苦しいくらいにぎゅうっと抱きしめられ、わたしたちの間に隙間が無くなる。
「早く、俺に堕ちて」
耳元で囁かれた声が、妖艶さを含んでいて、羞恥心でどうにかなってしまいそう。
「堕ちま、せん……」
「頑固だなー」
ああもう……絶対、心臓の音聞こえてる……。
そう思うわたしの耳に、わたしよりも大きな心臓の音が届いていた。

