「先、輩っ……」
「ん?」
「映画に、集中できないっ……」
「なんで?」
なんでって……先輩が、こんなに至近距離に、いるから……っ。
喋るたび、先輩の息が耳にかかる。
「集中なんてしなくていいじゃん。俺で、頭ん中いっぱいになって」
なに、言って……
「俺はもう、杏でいっぱいいっぱいなのに」
ドキリと、胸が大きく高鳴った。
先輩が今、どんな顔をしているのかわからない。
けれど、その声だけで、真剣さが伝わってきた。
先輩の頭の中がわたしでいっぱいなんて、信じられないよ……。
「本当に……?」
「まだ疑ってる?」
少し困ったような表情で、わたしの顔を覗き込んでくる先輩。

