山田さん的非日常生活

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「山田さん!やーまーだーさーんっ!!」

「ん…?」


耳の奥にこだまする声。

目覚ましのけたたましい音じゃない、穏やかな。でも確実に、あたしを呼ぶ声。


目を開けたとたん眩しい光がいきなり入り込んできて、眉をひそめる。


寝起きでぼやけたままの視界に、黄金の色。


「……?」


頭がまだ回転を始めない。

しばらくして、それがカボの頭だと気づいた瞬間。あたしの頭の覚醒水準が一気に上昇した。


「〜なななな何!?なんでいきなりドアップなのよっ!?」

「だって山田さんいくら呼んでも起きないから、これは頭突きで起こすしかないかなぁ、と」


…やめてください。普通に優しく肩をゆする程度にしといてあげてください。

見慣れない天井をぼんやりと見つめて、ああ、そう言えばあたしはカボと旅行に来てたんだって思い出す。

チュンチュン、と爽やかな鳥のさえずりが耳に入ってくる。

…眠る直前は熟睡なんてできるわけないとか思っていたあたしたが、どうやら熟睡どころか爆睡していたらしい。

しかもすっごいイイ夢を見てた気がするんだけど…どんな夢だっけ。


カボはとっくに着替えを済ませていて、昨日とはまた違ったロングTシャツを着こなしていた。カボが着ると、こりゃないだろっていう服までオシャレに見えるから不思議だ。

慌ててボサボサな髪の毛を手櫛で直す。触るだけでわかる、パイナップルみたいな抗重力ヘアー。恐るべし、あたしの剛毛。

しかも昨日散々泣いた記憶があるんですが。きっとまぶた、腫れ上がってる気がするんですが。
今のあたし、オバケどころの騒ぎじゃないかもしれない。


「起きたならすぐ起こしてくれればいいのに…」


ブツブツと文句を言いながら、自分の荷物から着替えを出す。

そんなあたしに、カボはふわりと微笑んで言った。


「だって山田さん、よっぽどいい夢見てたみたいだったから」

「…なんで?」

「寝言言ってましたよ?カニ〜とか、イセエビ〜とか」


…そんなに食べたかったのか、あたし。


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