山田さん的非日常生活

…あたし、バカだなぁ。

大泣きするあたしを前に、困り果てて眉を下げ、うろたえるカボ。

涙で浴衣の袖がベチョベチョだ。


…カボなら、わかってくれるのに。

あたしがどんなに意地張っても、強がっても、不器用でも、カボはわかってくれるのに。

いつだってあたしを笑顔で迎えて、いつだってあたしの手を引いてくれるのに。


…だからあたしは、カボを好きになったのに。


何度も何度もしゃくりあげる。静かな部屋の中で、あたしの声だけが響く。

こんなに泣いたのは一体いつぶりだろう。
ちっちゃい頃に逆戻りしてしまったみたいな気分だ。

涙の塩分が、頬にしみて痛い。こんなに泣いたら、明日の朝まぶたが悲惨なことになる。


…その時だった。


「ぎゅ……っ!!」

「………へ?」


いきなり思いつめた表情で声を発したカボ。

さっぱりわけがわからなくて、溢れてばかりだった涙が止まる。


…ぎゅ…牛?牛って何だ?いきなり肉の話?


ポカンと口を開けたままのあたし。カボはすねた時みたいに口を尖らせて、照れた時みたいに目線を合わさない。


「…カ…カボ?なに、さっきの…?」

「…抱きしめた音です」

「…は?」

「だ…だって!!本当はぎゅってしたいんですけど、さっき指一本触れないって約束したばっかだし、山田さんに、触れられ、ないから…」


しどろもどろになって俯くカボ。

周りは暗いのに、それでも顔が赤くなっているのがわかる。


「……カボ…」


…あたしもバカだけど、カボもバカじゃないのかな。

ぎゅって。効果音かよ。そんなこと言ったりして恥ずかしくないわけ?言われる方も恥ずかしいよ。恥ずかしすぎて嬉しくて泣きそうだバカ。


ほんとに、バカだ。バカで天然で空気読めなくってKKMKYで。



…そんなカボが、大好きで仕方ない。


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