山田さん的非日常生活

なぜか意気投合してしまったあたしたち。

わけのわからないことを叫びながら二人して拳を突き上げて飛び上がる。

あたしと料理長の不思議な組み合わせにこのテンション。…はたから見たら多分宗教団体だ。

震えなんて、どっかに飛んでいってしまったみたいだ。

料理長にお礼を言うと、飛び上がったその勢いで広間をあとにした。


パタパタと走りながらカボの待つ部屋へと向かう。


…そうだ、あたしは平成生まれ!あたしは平成の女!!平成万歳!!逃げてたってどうしようもない。どんなに変人だろうが、カボはあたしの彼氏なんだから。あたしはカボが好きなんだから。


いつもより長く一緒にいられる今日が、本当は嬉しいんだから。


女将さんに負けない勢いでスパーン!!と引き戸を開く。

意気込むあたしの耳に飛び込んできたのは…



「山田さーんっ!!」

「……」


奥の部屋から聞こえる楽しそうな声。

ボスンボスンという音と共に、カボの金髪が布団に勢いよく倒れ込むのが見える。


「…なにしてんの」

「山田さんっ!!すごいですよこの布団!!フッカフカなんです!倒れても全然痛くないっ!!」


ほら!とはしゃぎながら、再び布団にボスン、と倒れこむカボ。

…お前は幼稚園児か。

いきなりあたしの戦闘態勢を崩しにかかるのはやめてください。

唖然と入り口で突っ立っていたあたしだったが、「山田さーん!!」と何度も連呼されるあたしの名に仕方なく奥の部屋に出向いた。

髪の毛をボサボサにしたカボが、キラキラした瞳であたしを見つめる。


「…カボんちならこんな羽毛布団、山ほどあるでしょ」

「でも家にあるのはベッドですし!こうやって床に直に寝具を敷いて寝るなんて初めてです!!」


…あたしなんて、今まで十数年生きてきて寝るときゃずっと床だよ。ベッドなんかねぇよ。しかも家狭いからお母さんの隣で寝てるよ。お母さんの寝相悪くてたまに顔にビンタくらってもたくましく生きてるよ。


あたしがさっき落ち込んだ分と無駄に意気込んだ体力を返せバカ。

はぁ…と思わずため息をついて、料理長の言葉を思い出して慌てて吸い込んだ。


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