山田さん的非日常生活

「…なんで笑うんですか」

「べ…別に笑ってないよ?」

「手、もう大丈夫ですか?」

「あ、うん!ヤケドって程じゃないし──」

「ギュッてしてもいいですか」

「あ、うん………って…は、ハアァっ!?」


喉がひっくり返ったみたいな、すっとんきょうな声になった。

だってだってだって!いきなり何言い出すんだカボ。ギュッてアンタ。なんてこっぱずかしいことを言い出すんですか。さっきまでヒッヒッフーとか言ってたくせに!!


つかまれたままの右手。

カボの指先はあたしより冷たいはずなのに、触れられたそこからたちまち熱くなる。


思わず目線をそらす。


浴衣の切り替えから、のぞいた胸元。

温泉の効果か、食事の湯気のせいか。日焼けしたあとみたいに、少し赤くなった皮膚。


浮き出た喉仏。鎖骨。


…それはあたしにはない、男のヒトのもので。



─ガタン!

思わず後ろに仰け反って、しりもちをついてしまった。

驚いたように目を丸くするカボ。顔が真っ赤になるのが自分でもわかって、握られていた手を思いっきり振りほどく。

その瞬間。一瞬だけ、カボが傷ついた表情を見せた。


「──っ、ご、ごめ…」


おかしい、おかしい、おかしいあたし。

なんで声震えてんの。緊張しすぎて吐きそうだ。胃の中のもの全部出そう。

何だっけ?ウインナーにじゃがいも、ブロッコリー、にんじん…じゃなくて。


「山田さん!?」


その場にいたたまれなくなって、立ち上がるなりそのまま部屋を飛び出てしまった。しかもスリッパも履かずに、素足のまま。

あたしのあとを、カボの声が追う。


「山田さん…っ!!フランスパンが残ってます!!」
「〜知らないわよっ!!」


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