山田さん的非日常生活

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「あっ!!ちょっとカボっ!!フランスパンは一人三つずつなんだからね!!」

「す、すみません!!」


長柄のフォークに刺した具が、鍋から上がるととろーり黄金の糸を引く。

ホカホカと湯気が舞うそれを口に入れれば、絶妙な塩加減とほのかな甘味を伴ったとチーズの味が口いっぱいに広がる。


あたしたちはまるで祭りの出店でヨーヨーを釣り上げた子供みたいに、鍋からフォークを上げては「おお〜っ!!」と歓声を上げていた。

普段はあんまり好きじゃないブロッコリーでさえもこれなら美味しく食べれる。料理長のお手製フランスパンなんてとくに絶品だ。


…でも、料理長一体いつパンをこねる暇があったんだろう。


キェェーっ!!と奇声をあげながらあたしたちに向かってくるフェンシング姿の料理長を思い出して、身震いした。


「…まぁ、これなら会席料理じゃなくていいかも」

「?…なんの話ですか?」


にんじんを口にしながらぽかんと首を傾げるカボ。


アルプスの山々とか言い出すからさっきはちょっと愕然としたけど、これはなかなかの当たりだ。

チーズフォンデュってこんなにおいしい物だったのか。もっと早く出会っておけば良かった。

…まぁ家でなんて絶対してくれないだろうけど。「鍋が焦げ付くから洗い物めんどくさい」とかお母さんに言われるだろうけど。そんできっとお母さんはお父さんに洗い物を押し付けるんだ。仕事で疲れてるのに、「最近は男性も家事をするものよ」ってこき使われるんだ。ごめん、お父さん。こんな親不孝な娘でごめん。


「山田さん…?」


カボが不思議そうな顔で、あたしの目を覗き込む。


「大丈夫ですか?フ…フランスパンはちゃんと残してますよ?」

「…別にフランスパンのこと考えてないよ」


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