山田さん的非日常生活

ひっくり返る世界。

前のめりに倒れる体。


…ああ、それもこれもお母さんからの遺伝の、短い足のせいだ。そう言ったらお母さんは「あたしの足が短いのはおばあちゃんのせいよ」って返してくるけれど。


「山田さんっ!!」


あたしが畳にぶつかるより先に、カボの手が伸びてきてあたしを抱え込む。

ふわりと、包まれるみたいに、衝撃はなかった。


「………」

「………」


あたしの代わりに、仰向けにひっくり返ったのはカボ。


あたしは思いっきり、カボを押し倒す形になっていた。


「───!!」


顔が赤いを通り越して、真っ赤になる。頭沸騰しそう。耳からピューて、湯気出そう。


あたしが体を起こすよりも早く、スパーン!て部屋の引き戸が開かれる音がした。

現れたのは、女将さん。

着物姿に戻った女将さんは、あたしたちを見て目を丸くする。


「あら…あらあらあら!すみません、お取り込み中のところ…」
「全く断じて決してお取り込んでません!!」


ガバッと勢いよくカボから離れる。正座になったあたしに、まだポカンと転がったままのカボ。

女将さんはあたしに向かって意味深な笑みを浮かべる。

まとめ上げられた髪の下にのぞくうなじからは、女のあたしから見ても妖艶な色気が漂っている。


「夕食をお持ちしたんですけど…もうちょっと後からの方がいいですかね?」
「ものすごくバッチリ今からでいいですね!!ええ!!」


…というか。さっきの温泉といい、今といい、ノックというものをいい加減覚えてください女将さん。

お客様のプライバシーをちゃんと守ってあげてください。ズカズカと心の中に乗馬ブーツで踏み込まないでください。


引き戸の向こうで、食器が揺れる音がする。


…7時半ピッタリだ。絶対遅れると思ったのに。


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