山田さん的非日常生活

…うん!とりあえず今は忘れようっ!!

上がったら夕食だし!とりあえず旅館と言えば懐石料理!!めったに食べられるもんじゃあないんだし、楽しまなきゃ損だ!!


気合いを入れる意味を込めてエイエイオー!!と拳を突き上げる。

そのままざばぁっと温泉から飛び出した…ちょうどその時。


「……」
「……」


拳を頭の上に突き上げたまま、固まるあたし。

ジャストのタイミングで、女将さんが温泉の入り口に突っ立っていた。


「……」

「………」

「…………」

「…あの…お布団の方、お部屋の奥にもう敷かせていただいてもいいですかね…?」

「…あ、ハイ…どうぞ…」


カラカラカラ…と申し訳なさそうに閉まっていく入り口の引き戸。

心を決めて飛び上がったはずの温泉に、もう一度浸かる。すでにのぼせた頭に、また勢い良く血が上った。


「……。」


…これじゃあ、昭和の女どころか昭和の痴女、山田幸子だよ。

なんなのあのタイミングの悪さ。もしかして図ってた?あたしがジャンプするのを今か今かと見計らってたんですか?

羞恥で死にそうになっているあたしの耳に、入り口の戸をコンコンとノックする音が聞こえた。


「……はい?」

「あの〜…」


控え目に引き戸から顔をのぞかせる女将さん。

若干笑ってるのは、気のせいでしょうか。


「…お布団は、一組にしときましょうかね?」
「二組でお願いいたしますっ!!」


いっそ三組敷いてやってください!!

…というあたしの大声は、温泉の岩を越えて遠くの山々にまでこだましたのだった。














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