山田さん的非日常生活

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「つ…疲れた…」


立ち上る白い湯気。

体にしみるような温かいお湯。

旅館の温泉は、周りを自然の岩で囲んだなかなかの眺めと規模を誇るものだった。

時間がズレているのだろうか。他のお客さんの姿はなくて、女湯はあたし一人で貸し切り状態。

心地よい温度に包まれて、目をつむった。


旅館のプランとやらを一通り行い、夕食までの時間にひとっ風呂浴びることにしたあたしたち。

だらんと死人のように力の抜けた腕と足が、ゆらゆらと湯の中に浮いている。


…実際、もう腕にも足にも力が入らないんだけど。それもこれも、さっきまでの恐ろしいプランたちのせいだ。

思い返すだけで背筋がぞぉっとする。あったかいお湯に浸かっているっていうのに。


…あの悪夢の後。

なぜかフェンシング体験をさせられることになって、その指導者としてまたまたあの料理長が出てくるし。

しかも料理長、指導の途中にだんだん白熱しだして初心者のあたしたちに本気で向かってくるし。

終わったと思ったら次はオペラ鑑賞とか言われて、行ってみたら実はただの女将さん一人カラオケ大会だし。

最後にはデュエット入れ出して、一人で男声と女声使い分けて熱唱しだすし。



…もう、心も体もぐったりである。


本当にあたしたちは旅行が目的で来たんだったっけ?なんか今、肉体も精神も鍛えるために山にこもっている修行僧の気分なんですけど。

…カラオケはまだしもフェンシングって。中世の騎士たちのスポーツとかじゃないわけ?なんであたしたちがあのほっそい針みたいな剣でいきなり戦わなきゃいけないんですか。っていうか、こんな佇まいの旅館として提案するならせめて武士のスポーツじゃないんですか。せめて剣道だろうよ。

…別にせっかくの休日に旅館に泊まりに来てまで竹刀ふりまわしたかぁないですけど。


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