山田さん的非日常生活

背中にくっついた心臓の音が、あたしの音と重なる。

おさまってきていた拍動が、また速くなってしまいそうだ。


彼氏だっていう欲目で見なくても、さっきの助けてくれた瞬間のカボはほんとに王子みたいだった。

例え王冠がなくっても、かぼちゃパンツの代わりにはいているのがジーンズでも。

…いや、実際にジーンズじゃない方をはかれてたらちょっと困るけど。


そんな時。ドクン、ドクン、に混じってパチパチと渇いた音があたしたちを包んだ。


…パチパチ?


「素晴らしいっ!!」

「いやぁ!瞬きもできぬ名場面でしたな!!」


あたしとカボがまたがっている馬の周りを囲うようにして、拍手をする女将さんたち旅館のスタッフ一同と思われる方々が。

頭にハチマキを巻いた料理長らしき人が、何に納得しているのかうんうんと感慨深く頷いている。


女将さんがあたしたちの手を取って、潤んだ瞳を輝かせた。


「先ほどの東山様と山田様の勇姿、しっかりとビデオに収めましたので!!

「………」


…いや、あの。ビデオ撮る前に慌てるとか助けようとかしようよ。

旅館のプランですよね?安全管理はどうなってるんですか。っていうか女将さん、馬に触れてすらいないんですけど。そのブーツインの乗馬スタイルは見かけ倒しですか。スキニーパンツを穿けば太もも周囲がピッチピチになってしまうあたしへの当てつけですか。


あたしが唖然としていると、女将さんがハチマキの料理長に向かってなにやらコソコソと指示を出すのが聞こえた。


「料理長、食事の準備は放置でいいからこのビデオをできるだけ早急に編集してちょうだい」

「承りました、女将!!」


…いやいやいやいや、あの、聞こえてますけど。料理長は料理してください。快く承らないで、あたしたちの昼食を作ってください。

っていうかそろそろいい加減、姫子から降りたいんですけど…。

そう思って気がついた。カボの頭が、まだ肩に乗っかったままだ。


.