山田さん的非日常生活

その馬と鉛筆の金額の落差を考えるヒマもなく、あたしの乗っている馬は、あたしが何もしていないのに勝手に前に歩き出した。

…女将さんによると、名前は姫子っていうらしい。


「ひぃぃぃぃいっ!!」

「山田さんっ!!首絞めちゃだめですって!!」

「降りるっ!!降りるから止まれっ!!止まってってば姫子ぉ!!」


あたしの心からの叫びはツーンと軽く無視しやがって、姫子は優雅にパッコパッコと歩みを進める。

茶色い背中の地面が揺れる。震度4。やばいやばい、本棚とか倒れてくるって。小学校の防災訓練で何度もやったなぁ、机の下に隠れて頭を守る…


じゃなくて。


ホント無理、あたし乗馬の才能ない。


「やだあぁ!!止まってぇ〜っ!!」


必死で姫子の体をバシバシと叩く。

…その瞬間。


「ひ…っ!?」


それを合図だと思ったのか、姫子はヒヒーン!!と高く鳴くと、いきなり前足を蹴り上げて飛び上がった。

そのまま猛スピードで走り出す。震度4どころの、騒ぎではない。


「ぎゃああああああああ!!」

「山田さんっ!!手綱を引いてください!!首に巻きつかないで!!」

「無理っ!!確実に落ちるもん!!…ひぃぃっ!!?」


まさに暴走。あたしは今にも落ちそうになる体を支えつつ、必死で馬の首に巻き付く。

何が姫子、だ。姫のカケラもない。ハリケーンの間違いじゃないのか。それも名前のセンス微妙だけど。ああ、あたしの人生ここで終わりか。ずいぶんとあっけない人生だったな。他にもいろいろしたいことあったのに…したいことって、岩盤浴に一回くらい行ってみたかったとかそんなレベルだけど。

お父さんお母さん、そして、あたしのちびた鉛筆をいつも削ってくれるおじいちゃん…先立つ不孝をお許しください…。


「山田さんっ!!」


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