山田さん的非日常生活

…ごめん、正直見くびってたよ町内会の福引き。

心の中でおじちゃんおばちゃんに謝りながら、とりあえず部屋に用意されている座布団に腰を下ろす。

途端にスパーン!と潔い音を立てて扉が開いた。


「………」


そこにいたのは女将さん。

…だが、着物姿の彼女はどこへやら。カッチリした上着に長いロングブーツ、その中にインしたスキニーパンツ。

呆気にとられているあたしと目が合うと、女将さんはこれでもかっていうくらいにニッコリ笑った。


「準備が出来ましたので、外の裏庭の方にご一緒にお越しください」

「…え、あの…」

「お荷物は何もお持ちにならなくていいですから」


颯爽と踵を返し、スタスタと歩いていく女将さん。固そうなブーツが、木の床とぶつかってコツコツと音を立てる。


「行きましょう山田さん!」


呆然と座ったままのあたしに向き直ったかと思うと、反応する前に勝手にあたしの手を取るカボ。

…普段のデートの時は、手なんか繋がないくせに。いつもよりちょっと強引なカボに、驚いた。


それもこれも、付き合ってるっぽいことをするのに慣れてなさすぎてキョドってしまうあたしのせいなんだけど。

だって人様の前で手を繋ぐとか、なんだその羞恥プレイ。絶対手の中汗でベトベトになる自信がある。手のひらから水分全部出る。


ちょっと骨ばったカボの大きな手。

…まあ、誰も知り合いなんかいないし。旅の恥はかき捨てってヤツだ。


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