山田さん的非日常生活

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旅館は、山奥の自然に囲まれたなかなかの風情あるものだった。

構えられた庭園には、カコン、カコンと鹿威しが一定のリズムを刻む。まさに和を重んじる、といったかんじだ。

旅館に入るなり、女将さんがあたしたちを出迎えてくれた。


「ようこそお越しくださいました、東山様。お部屋の方ご案内いたします」


…おお、まさに女将ってかんじだ。

すすす、と小股であたしたちの前を歩く着物姿の女性。優雅な振る舞いに、女性らしさが漂っている。

若い頃はさぞかし綺麗だったんだろうなぁ…なんて感心していると、女将さんがニッコリとあたしたちを振り返ってこう言った。


「プランはお電話でお話した通りでよろしかったですか?」

「…プラン?」

「はい!大丈夫です!!」


ぽかんとするあたしをよそに、カボも負けないくらいの笑顔で返す。


…一体何の話だ?

あたしが首を傾げていると、


「こちらでございます」


女将さんが足をとめ、すっと廊下の端に寄る。

"瓜の間"と書かれた部屋がいつの間にか目の前にあった。

女将さんが引き戸を開けて、あたしたちが部屋に入れるようにしてくれる。


踏み込むなり、立ち込める畳の匂い。

飾られた日本画。

違い棚に、光に透けて白さを際立たせるふすま。


期待を裏切らない風情ある和の世界に、あたしの頬は思わずゆるんだ。


…やっぱり旅行で来る旅館は、こうでなくっちゃ。

統一されていて、うちの家みたいなごちゃまぜ感は全くない。


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