山田さん的非日常生活

そりゃ機嫌も良くなります、そう言って満面の笑みを向けられたら、あたしは黙って俯くしかない。

こういうとき、かわいい彼女なら

「あたしもすごい嬉しい!」

…とか、笑顔で言うんだろうな。

この意地っ張りで口下手な、救いようのない可愛げのなさをどうにかしてほしい。


「それにしてもほんと、運が良かったです」

「…一等だっけ?"温泉旅館一泊二日の旅"」


ガラガラを回して金色の玉が出てきた時はビックリしました、と笑うカボ。それに合わせて揺れる髪も、金色だ。

根元がプリンになったところを見たことがないから、本当にもともとの髪色が金色なのかと疑ってしまう。

顔立ちだけみれば、若干外国人入ってる気がするし。


…にしても。

町内会の福引きの旅行とは思わなかったよ。旅行って、てっきり東山家の別荘とかかと思ってたよ。

あんなに金持ちのくせに、福引きで当てた車で一時間かからない近場旅館への旅行にこんなにも喜ぶなんて。

カボはこういうところ、けっこう庶民的感覚だったりする。だから身分違いとか、そんなことを感じないでいいのかもしれないけど。


車内に流れるのんきな鼻歌。


…それとは正反対に、あたしは内心、緊張で倒れそうだった。


パンパンにつめたカバンの一番奥には、見繕ってもらった勝負下着。

5000円以上のモノを身につけるなんて、じんましんでも出たらどうしようか。

旅行どころか、まるで飛び立ちを目前に控えた特攻隊の気分だ。ああもう、車の窓から飛び出したい。そんな勇気ないけど。っていうか、窓通れるほどそんなスリムじゃないけど。


もたれかかって、はぁっとひとつため息を吐く。窓ガラスが、一部だけ白く曇った。



…今からこんなにドキドキしていて、この一泊二日、あたしの心臓はもってくれるのだろうか?






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