そっと緩まる力。

ゆっくりと離れる体。


近距離にあるカボの顔を見れない。心臓がドキドキしすぎて爆発しちゃいそうだ。


でもゆっくり、ゆっくりと俯いていた顔を上げていく。

視線がカボの胸元まで来て、あたしは思わず「…あ!!」と声を上げてしまった。

カボの白いシャツにベッタリと、カボのお母さんが塗ってくれた口紅が付いてしまっていたのだ。

清潔な白いシャツに、ドピンクな口紅。やばいやばい、クリーニングでこれ、落ちるのか?


「ごめんカボっ!!すんごいドップリ付いちゃった…!!」

「いえ!この方がいいです、だって」



"山田さんの彼氏っていう印になります。"



…なんて言って、カボがふわりと笑った。

しるし。カボがあたしのものだっていう、ドピンクなしるし。

それはとても優しく、とても幸せな笑みで。


「…っ、山田さん!?」


あたしは思わず、そんなカボにもう一度抱きついてしまったのだった。


「山田さん?ど…どうしたんですか?」

「…べつに」


可愛らしさのかけらもない声でブスッと答えると、さらに強く顔をうずめた。

口紅のあとが二つになるかもしれないけど、許してねカボ。

カボはまた少し笑ってから、おんなじようにあたしの背に腕を回してぎゅうってしてくれた。


「…今日の山田さんは、やっぱり面白いです」

「………」


絶対にあたしの顔、今も真っ赤だ。

最近カボに負けっぱなしな気がして、少し悔しい。だから。



"あたしも急にぎゅうっとしたくなった"



…なんて、絶対に言ってあげない。