山田さん的非日常生活

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カボの家を出る頃には、もうとっくに22時を回っていた。


すったもんだした夕食が済んだあとも、あたしがゆったりする時間は全く皆無。

お母さまの部屋に連行されて「この色山田さんに絶対似合うと思うのっ!!」ってドピンクな口紅をいきなり塗りたくられたり、

お母さまの私服(まるでフランス人形の服みたいなものまであった)を次々に着せられ、ひとりファッションショーみたいなものをやらされたり、

お父さまに庭の手入れの大切さとその心構えについて熱弁されたり。


…なぜだか知らないが、二人はあたしのことをとても気に入ってくれたようだった。


別に何も気に入られるようなことひとつもしてないんですけど。

結局皿洗いも、じゃんけんでお父さまとカボがすることになったし。

普通なら女陣がやるものなのに、これじゃあまるっきり逆だ。


こんな庶民の、何もかもが平凡な女の子。

…お金持ちの、代々社長を務めているような一家にはふさわしくないとは思わないんだろうか。

普通ドラマとかだったら絶対、「この子には決まった婚約者がいるの。別れてちょうだい」…的なことを言われるのが定番なのに。




「山田さん、今日は来てくれてありがとう!!」

「とっても楽しかったわ、山田さん!」


玄関口で、右手をお父さま、左手をお母さま、二人に同時に握られる。

こんな熱い視線を二つ同時に送られたら焼け焦げてしまいそうだ。

苦笑いするあたしを置いて、カボは「車とってきますね」と車庫へと走っていってしまった。


…というか。あたしを気に入ったというよりも、ただ単にあたしみたいなザ・庶民が物珍しいだけじゃないだろうか。

だって自分で言うのもなんだけど、あたしは庶民の、平凡の、代表的存在だ。生クリームたっぷりのショートケーキより、若干ひからびたあたりめが似合う。




──カボが去ってしばらくしたあと。

お父さまとお母さまはふっと表情を固くすると、握っていた手の力を緩めた。気まずそうに、お互いに顔を見合わせる。

お母さまがあたしに何か言いかけたが、ためらうように再び口を閉じた。


…なんだか、微妙な空気だ。



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