山田さん的非日常生活

笑顔のお手本です!みたいなスマイルを顔に貼り付けて、カボがあたしに言う。

…女は愛嬌、男は度胸だ。男のくせにそんな満面の笑みで愛想を振り向かなくたって、


「東山家では、自分の隣の人にまず食べさせてあげるっていう決まりがあるんです」



…知らねえよそんなルール。



唖然としていると、左隣のお父様がまた優しく微笑んであたしに語りかける。

初めて似ているかもしれないと思った。お父様とカボは、笑顔がそっくりだ。

左にだけ、えくぼができている頬までも。


「最近は弧食が多くなっているからね。親が仕事で、子供が一人で食べる。そういうのはだめだと思うんだよ。東山家ではどんなに忙しくても夕食は必ず家族でとろう、そしてコミュニケーションの一つとして食べさせあいをしようと決めているんだ」

「…へ、へぇ…、さすが、由緒ある東山家には代々そういった決まりがあるんですね…」

「いや、決めたのはおとといだけどね」



…ずいぶん最近だなオイ!!



とりあえず思いっきり深呼吸する。

郷に入っては郷に従え、だ。とりあえずおとといできたての決まりに従うしかない。

仕方なく、フォークを構えるカボに向かって、仕方なく、みんなに微笑ましい目で見つめられながら、仕方なーく、口を開けた。


「はい山田さん、あーん!」


気まずい。気まずい。限りなく恥ずかしい。


触れた唇に肉の分厚さは感じたものの、おかげで肉の味がさっぱりわからない。

あとで二人になった時に、絶対カボに文句言ってやる。赤巻紙青巻紙黄巻紙みたいな早口言葉な勢いでつっかかってやる。東京特許許可局!隣の客はよく柿食う客だ!…違う!今は柿より肉だ!!

急いで飲み込み、気を取り直して自分の切った自分の肉をフォークに突き刺す。


やっと口に運ぼうとした。


ら。


「山田さん」

「……なに?」

「隣の人です」


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