山田さん的非日常生活

「どうしましたか山田さん?」

「…いや、別に…」

「あっ!欲しいですか?お肉足りませんか?」
「めっそうもございません」


…この量で足りないってあたしはどこ部屋所属の相撲取りですか。


あたしの前にはお母さま、斜め前にはお父さま、そして隣にはカボ。

にこにことあたしを見ているカボ、…とその家族。やりにくいったらこの上ない。カボはどちらにも似てないなぁと思ってたけど、このふわふわした笑顔は一家共通みたいだ。

…やめてください、無償の愛を与えるような目で見つめないでください。

でもこのままじっとしているわけにもいかないし。なんたって一生のうちでもうこんな高級な肉とは出会うことがないだろう。


ド庶民のあたしなんかに食われることになってごめんね、牛。でも人生一期一会っていうからさ。


恐る恐る切った肉の端っこに、フォークを突き刺した。


瞬間。

「きゃー!?山田さんっ!!」
「はぃいっ!?」


…な、何か間違えたんだろうか。お母さまの叫びに固まったまま、恐る恐る顔を上げる。

お母さまが唇をワナワナと震わせながら、この世の終わりと言わんばかりに顔を覆った。


「あ、あの…」
「あたしったら何てこと…っ!紙エプロン出すの忘れてたわっ!!ワンピースが汚れちゃうっ!!」



紙、エプ、ロン。



「………」
「待っててね山田さんっ!すぐ取ってくるわっ!!」


バタバタバタ。忙しげに駆けていくお母さま。紙エプロンって、家に常備してあるものなのね。あれだね、無駄に家が広いからさ、手を伸ばして届く範囲の所にモノがないわけですね。っていうかお母さま、1日にどれだけ走ってるんですか、もうあの、万歩計とか付けたらいいと思う。わざわざ外に歩きに行かなくてもすごい記録出ると思う。

.