あたしの持ってきた菓子折りのせんべいを6枚くらい積み上げた分厚さだ。いや、7枚?
…何がって?うん、目の前の皿に乗ったステーキが。
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さっそく通された恐ろしく広い家。天井にはぶら下がるシャンデリア、壁には豪華な額に入れられた絵画、大理石っぽい食卓のテーブル、そしてあたしの目の前には
「ステーキにしてみたの!山田さん、好きだった?」
「…あ、はい……」
好きだった?…と言われてもこんな高級そうな肉の塊、17年生きてきて初めて見たんですけど。
我が家ではめったに出ない牛肉。たまに食卓に出ても、指先でちょいと引っ張ればちぎれるくらいの薄さなんですけど。
やっぱりカボファミリーは相当なお金持ちらしい。
「はい、山田さん」
にっこりとあたしに微笑みながら、お絞りを手渡すカボ。
無駄に整った男前の顔なのに、いっつもフワフワした笑みを浮かべているから、どうにもそれが生かされていない。
「…ありがと」
周りの背景から自分だけが浮いているような気がして、いつもより猫背になってしまう。
お父さまが社長ってことは、その息子のカボが当然跡継ぎになるわけでしょ?
…だったら普通、どっかの社長令嬢とくっつくもんじゃないのかな。
こんな一般庶民のあたし、場違いもいいとこなんじゃないのかな。
じゅわ〜、と鉄板の上に乗ったステーキが音を立て、鼻先に香ばしい匂いが漂う。
目の前に置かれたナイフとフォーク。
…えーとフォークが左手なのよね?
隣に座るカボの手さばきを盗み見しながら、やっと目の前のステーキに取りかかり始めた。
こんなに分厚いのに、ナイフに力を入れなくても切れる。
きっと「口の中でとろけます〜」とかテレビでグルメリポーターが言う大げさなコメントのごとく舌の上でとろけるに違いない。
カボは慣れた手つきであっという間に肉を切り分けていく。
華麗な手さばきに思わず見入っていると、カボと目が合ってしまった。
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