ニコニコと、セールスマンも顔負けの笑顔を見せるのはやっぱり彼、カボ。


「寒いですもんね、最近」

「……」

「風邪にはあれです、ネギが効くらしいですよ、こう…首にぐるぐるっと──」

「…別に風邪じゃありません」


幸せの余韻を打ち消されたあたしは、ムスッとしながら棒読みの語句を発した。


「そうなんですか、猿みたいに真っ赤なお顔だったのでてっきり」

「…猿みたいで悪かったですね」

「いえ、大丈夫です!お猿さんは僕の一番好きな動物ですから」


…どこがどう大丈夫だというのだろう。

あんたに好かれてもちっとも嬉しかない。


「でも風邪じゃないなら、よかった」


なのにカボは不機嫌なあたしの態度を気にもとめずににっこりと微笑む。

だから余計にムスッとしたままの気分が増した。


さっさと会計を済ましてしまおうとして、思わず手を止める。

レジに乗っかっていたのは昨晩までのかぼちゃプリンじゃなく…普通の、ミルクプリンだったから。


そんなあたしの様子に気づいたのか、彼は意気揚々と述べてくれた。


「かぼちゃプリンは卒業しました」


…ああ、そうですか。

せっかくカボってあだ名、付けてあげたのに。


そんなことはつゆもしらない目の前の元カボチャ野郎は、手渡されたナイロン袋を嬉しそうに右手に引っさげて去っていった。



『嫌いです』



いつもなら店の棚に残らないはずの、やけに黄色いプリン容器が1つ…寂しそうに佇んでいた。