山田さん的非日常生活

…ああ、うん。オデコより何よりなんかもう、頭痛くなってきた。

社長夫人って、お上品に取り繕った、どちらかと言えばちょっと怖いかんじだと想像してたから。

そう言えば社長…カボのお父様は、今日は仕事なのだろうか。

社長となればそりゃ忙しいだろうし、息子の彼女がちょっと遊びにくるくらいで時間をとったりできないだろうし。


社長。


きっと葉巻たばこに、見た目にも高級とわかる背広を羽織って、ドッカリ社長イスに座ってるんだろう。

うちのお父さんなんて万年係長止まり。せっかくの休みの日でさえお母さんにこき使われて、社長イスどころか…いや、イスどころか家の隅っこの地べたに座ってるんですけど。

年々太っていくお母さん。反比例して、年々やせていくお父さん。

…ああ、なんか涙出そうになってきた。


「カボ。お父さまは、今日はいらっしゃらないのよ…ね?」

「いえ、いますよ」


そこに、とカボが指差した先。

高く茂った花畑の中に、麦わら帽子を被って手には草刈り鎌を構えた、おじさんがいた。


……え?


「父さん、山田さんがいらっしゃいました!!」


カボの呼びかけに、こちらを振り返る麦わら帽子どの。首にかけた手ぬぐいみたいなもので、顔を拭う。


「おお!いらっしゃい〜」

ニカッと笑う麦わら帽子どの…じゃなくて、カボのお父さま。

黒々と焼けた顔は、まるで海に行って帰ってきたばかりみたいだ。

草刈り鎌を腰に提げると、こちらへズカズカと歩いてくる。その足元は、ビーチサンダルだった。


「初めまして山田さん、カボの父、東山慶次郎です」

「は…初めまして…えーっと、今、何を?」

「うん?庭の手入れだよ」

そう言って両手にはめていた軍手をすばやくはずすと、にっこりと手を差し出してきたお父さま。

ランニングシャツが汗で体にぺったりくっついている。

…うん、あの、めっちゃ所帯じみてるんですけど!

普通こんな広い庭の手入れとか、お手伝いさんが総出でするもんじゃないだろうか。そんな疑問を抱きながら、差し出された手を握る。


「あの…お手伝いさんは?」

「ん?ああ、梢さんならあそこでお茶してるよ」