受信したメールの送信者は、カボだった。

カボのメールは、いつも絵文字が一つもない。

色味のない文面に、送ってくるメールの内容も、

"晩ご飯はオムライスでした"

"散歩していたら犬に追いかけられました"

…みたいな、小学生の日記のようなものばかりだった。

今度は電柱にでもぶつかったのだろうか。受信したメールを開いてみて、驚いた。


"今度の日曜日、うちに遊びにきませんか"


「………」


…カボの、家に。

そう言えば外でデートは何回か重ねたけれど、お互いの家のことについては話に上ったことすらなかった。

そもそもカボは、(不本意ながら)あたしの初彼氏。つまり彼氏の家に行くなんて、あたしにとっては当然未知の経験だ。

初っぱなの誘い文句の下には、珍しくまだ文章が続いていた。


"両親が、山田さんに会いたいと言っています。母は、山田さんが良ければ夕飯を食べにいらっしゃいと言っています"


「………」


カボの親を交えて夕食だなんて。手にしていたポッキーの箱を思わず落としてしまった。

だって付き合って、まだそんなに経っているわけでもないのに。

それでも向こうのご両親の気持ちを無碍にするわけにもいかない。どう返信しようか迷っていると、また携帯が震えた。


"from:カボ"
"件名:言い忘れていましたが"


引き続いて何事かと、恐る恐るメールを開く。

…もしやあたしを結婚を考えている人です、だなんて紹介する気じゃないだろうか。いくらなんでもそれは…いやいや、カボならあり得る。彼の脳内はあたしには全く理解できないのだから。「この前約束したじゃないですか」、とか言いだしたらどうしよう。してないしてない、だってあたしはまだ高校生──




"本文:母は張り切っています"





「………」





…行かせていただこうじゃないですか。


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