まるで花を飛ばしたような、そんな甲高い声が空気を割って飛んできた。

目を見開いた先には…数人の女の子に囲まれ、にこにこと愛想をふりまくカボの姿。


…逆ナン、てやつか。中身はそっちのけにすれば、確かにそこいらの芸能人より目立つのは否めないけれど。

キャハハ、と弾ける笑い声に、なんだかムッとした。ムッとした自分にさらにムカついた。


「一人で来てるんですか〜?」

「あたしたち、これからご飯行くんですけど東山さんも一緒に───」

「カボっ!!」


思わず発した声が、なんだかひどく焦っていて驚く。

金髪を中心にして一斉に振り返った彼女たちは、不審げに眉を寄せた。

空気を全く読まない当の本人は嬉しそうに顔を輝かせてこちらに手を振る。

「…あの人、」

あたしに敵意むき出しの視線を投げつけたままの女豹たち。

「…彼女ですか?」
「いえ、彼女じゃないです」


…否定すんの速ぇなオイ。

0,1秒くらいの速さで飛んできたその言葉に、今度はムッじゃなくて…心の底にズンときた。よくわからない、ごちゃごちゃした気持ち。

女たちの騒ぐ声が聞こえ、しばらくすると去っていく気配がした。

棒立ちになったまま俯くあたしの視界に、カボのスニーカーが写り込む。

「…山田さん?」


あたしのものよりも一周りもニ周りも大きいスニーカー。それを思いっきり踏みつけてやりたくなった。

─彼女じゃない、あたしは。あたしのことを好きみたいな態度はとるくせに、思わせぶりな台詞は吐くくせに、肝心なところで急にあやふやにする。

だったらドライブなんかに誘わないで。手作りが食べたいだなんて言わないで。頭ポンポンなんてしないでよ。カボの考えていることが全くわからない。


「あの、山田さん…?」


だれか説明して。

くすぶるみたいな、黒い、このわけのわからない気持ちを、説明して。


「山田さん?どうした──っ、」
「やめてよ!」

ふんわりと掴まれた腕を振り切った。

.