山田さん的非日常生活

ニッコリと、悪気のない笑顔を見せるお母さま。

少女のような無邪気な瞳が、あたしの心に諦めをもたらす。


「山田さんに嘘をつくのは心苦しかったわ。あのね、留学が東山家の決まりみたいに言ったけど…」

「ホントはこのドッキリが東山家の伝統なんだよ」


…ほとんど右から左へとすり抜けていったが、お父さまとお母さまが語った内容はこうだ。


遠くに行ってしまうからと離れてしまうような軽い気持ちじゃ、将来とても東山家の一員としてやっていけない。

その気持ちが本物かどうか。

気持ちの深さがどれくらいかを確かめるために、カボのお母さまの代からこの行事は行われているらしい。


…ってあたし、まだ二回目ですか。伝統とか全く関係なくないですか。

しかも結婚式場の係員の人とか、みんなこのために雇ったんですか。どんだけ大規模なことしてるんですか。


っていうかお父さま、会社はどうしたんですか。


お父さまが遠くを見つめ、懐かしそうに目を細める。


「私もアメリカに連れてって!!…っていきなり号泣されたのが懐かしいなぁ…」

「もう!!あなたったら!!」


幸せそうにじゃれ合うお父さまとお母さま。

完全なる二人の世界ができている。


…なんかもう、怒る気も起きない。


看板を出したリュックから、シワの寄った紙の束がのぞいている。

引っ張り上げて開いてみると、そこにはビッシリと並んだセリフの数々が印刷されていた。


『シーン1。母、山田の教室に飛び込む。』


黄色いマーカーペンが所々に引いてある。



「………」



…もしかして、台本まであったんですか。


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