山田さん的非日常生活

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『聞かなかったことにしてほしいの』



「…はあ」


家に帰ってすぐベッドに倒れ込むと、深いため息をついた。

制服のスカートが折れ曲がる。けどそれも、どうでもいいと思えるくらい疲れていた。


お母さまの口から聞いた、"留学"の二文字。


『浩一郎さんがまだ言ってないってことはなにか考えがあるからだと思うの。だから、あの子が言い出すまで知らなかったことにしてあげて』


まだ先のことだから、とお母さまは言ったけど。


無理だよ…。

知らないフリなんて。あたしの演技力の無さを知らないからそんなことが言えるんだ。


それ以上に、ショックを隠せなかった。


二年も、外国に行っちゃうなんて。

二年って長いよ?可愛い新婚のお嫁さんだって、二年経てばおせんべいボリボリ食べながらテレビのチャンネル権を独占するようになるんだよ。

掃除機かけるとき、「存在が邪魔」とか言って夫のお尻蹴ったりするようになるんだよ。


…まあそれは、ウチのお母さんだけど。


それに。


カボがあたしに一言も話してくれてなかったことが、ショックだった。

お母さまの話では、留学の話を渋ることもせずすんなり受け入れてたみたいだし。


だってもし、本当にあたしとこれからも一緒にいたいって。未来があるって、考えてくれてるなら。


…少しくらい相談してくれるよね?

…ちょっとくらい、悩んでくれるよね?


でもあたしは、もしかしたらものすごくうぬぼれてたのかもしれない。

カボなら、あたしのことをすごく好きって言ってくれるカボなら、

「山田さんがいるからずっと日本にいます」

とか言ってくれるような気がしてた。


勝手に、カボはあたしを最優先してくれるって、勘違いしてたんだ。


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