山田さん的非日常生活


お母さまの実家は、そんなに裕福な家庭ではなかったらしい。

家庭の足しにと、和菓子屋さんでアルバイトをしていたお母さま。

そこでなぜか毎日、同じ時間に同じ大福を買っていく男の人がいた。


それがお父さまだったそうだ。


「お父さま…そんなに大福好きだったんですか」


毎日同じ時間に、同じ物を買う男。

…っていうかソレ、どっかで聞いた話のような気がするのは、あたしだけですか。


いいえ、と笑いながらお母さまは首を振った。


「後からあの人に聞いた話なんだけどね。毎日買いに来てたのは…あたしに会いたかったから、らしいの。それに、あの人大福は苦手なのよ」

「ええ!?じゃあなんで…」


「勇者になった気分だったんですって」

「〜はぁ!?」


…ますますワケがわかんないんですけど。

大福と勇者に一体何の関係があるんですか。


「あえて苦手なものに果敢に挑んでまで、想い人に会いに行く…っていうシチュエーションが」

「………」


…普通に自分の好きなもの食べようよ。

挑む対象が大福って時点でショボいよ。

なんでお母さまもちょっとウットリした顔してるんですか。


ピンク色の乙女オーラを放つお母さまと、二人では食べきれそうもないパフェの残りを交互に見て、ため息をつく。

お母さまはそんなあたしとは間逆に、大きな瞳をキラキラさせて言った。


「でもね。その時はあたしも、こんな…結婚するまで続くとは思わなかった」


バレンタインに作るお菓子の種類が無くなるくらいね、そう言ってお母さまはニッコリと微笑む。

それがあんまりにも可愛らしくて。お父さまもこの笑顔に惚れ込んだんじゃないかな、なんて思った。


.