『いや、男側の意見としてはですね──』

雅美のハガキについての討論が垂れ流しになったままの車内。

次は気づかれないようにと、そっと隣の無駄にデカい男に視線を流した…その時。


「梅干しですか?鰹ですか?」

「…は?」


突然発された意味不明な台詞に、頭に疑問符を浮かべたまま眉をひそめる。

カボも負けじと同じくらいに眉を寄せ、深刻な顔つきになった。


「どっちも長所があって迷いますよね…」

「…だから何が?」

「ん〜、でも山田さんはやっぱり昆布かも…」


…人の話を聞け。


ため息と共に肩を落とすと、脳内異世界トリップしていたらしいカボはやっと意識を取り戻したらしい。


「やだなぁ、山田さん!おにぎりの具に決まってるじゃないですか!」


…いつの間にそんなこと決まったんですか。


あんぐりと口を開けたままのあたしを置いてけぼりにして、「ピクニックにはやっぱりおにぎりです!」とかなんとか弾んだ語尾で語り続けるカボ。

…マシンガントークどころの騒ぎじゃない。

そのままハンドルを切ると、カボは一軒のコンビニの前に車を止めた。


「ということで、お昼におにぎり買っていきましょう、山田さん!」


…それでもまるで遠足に来た園児のようにソワソワと浮き足立っている彼を見ると、呆れて垂れ下がっていた口元すら笑い顔を作り出すのだから、不思議だ。

半笑いのような不気味な顔のまま、彼の後ろに続いてコンビニの自動ドアをまたぐ。


「いらっしゃいませー!!」


溢れんばかりの笑顔で迎えてくれる…自分のバイト先のとはまた違う制服を着た店員。

たまに客としてコンビニに来ると、いつもとは立場が逆転してなんだかむずがゆい気分になる。


敷き詰められるように並んだおにぎりたちは、我先にと訴えるようにコーナーから身を乗り出していた。


「うう…どれにしよう…」


にらめっこを続けるカボを横目に、今日何度目かの苦笑い。…いや、失笑。



『彼の気持ちがいまいちわからなくて─』



…わかるわけない。


カボの気持ちどころか、彼のやることなすこと、全部あたしの常識の領域をはるかに超えているのだから。