山田さん的非日常生活

カボは隣にいる外国人に片手を上げると、軽く頭を下げた。


「Sorry.Please go on ahead meeting room.」

「Oh,ok.」

「I'll be with you in a minute.」


…な、なに?


ポカーンと口を開けてカボを見る。


カボってば英語とか喋れちゃうわけ?

全然知らなかったんですけど。


外人さんがあたしたちに会釈をして去っていく。

マヌケな…多分エサを食べる鯉みたいな顔をしているあたしに、カボはにっこり微笑んだ。


「母につきそってもらっちゃってすみません、山田さん」

「カボ…英会話にでも通ってんの?」

「え?」

「だって英語…」

「ああ!違うんです、小さい頃家族で海外に滞在してたことがあったので」



…海外って。

スケールが違いすぎる。軽いカルチャーショックだ。

そりゃ貿易会社社長の一家なわけだし、そういうこともあるのかもしれないけど。


普段は全然感じなかったけど。カボがあんまりにも庶民的だから考えにも及ばなかったけど。


カボは将来、この会社を継ぐ可能性が一番高いわけで。


「お見それいたしました…」

「山田さん?」


…ああ、なんかカボがものすごい遠い高貴な人間に見えてきてしまった。

後光が射してるよ、カボ。あたしとは大違いだ。だってあたしなんて、街で外人に話しかけられて「さんきゅーさんきゅーべりーまっち!」ってワケもわからず言ってたら変なツボ買わされそうになったことあるよ…。

ほらザッハトルテも言ってる、「お前なんぞがつりあえる相手じゃなかろう」とか言ってる気がする!!

…っていうか「お前なんぞ」とか生意気なんだよザッハトルテ!!ちょっとツヤツヤしてるからって──


浮かび上がってきた思考を振り払うように、頭を左右に振る。


ダメだダメだ。決めたんだから。

もう「自分なんか」ってマイナスな方向ばっかりに考えるの、やめようって。


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