山田さん的非日常生活

「慶次郎さん、今ちょうど社長室に戻ったとこらしいわ」


戻ってきたお母さまが、あたしにニッコリ微笑みかける。

やっぱりとてもあたしのお母さんと同い年くらいには見えない。


「あ…、じゃああたし、ここで待って──」

「社長室のドアも回転ドアなの!!」

「………」


…また「いち、にの、さん!」役をしなきゃいけないんですね、あたし。

っていうかお父さま、どんだけ回転好きなんだ。


仕方なくお母さまの後ろについて、最上階に向けてのエレベーターを待つ。

ものすごく肩見が狭い思いだ。制服のままこんなとこ来て、どう考えてもあたし一人だけ浮いてる。

制服のこと差し引いても、庶民オーラ全開だっていうのに。


チーン、と音を立ててエレベーターが一階に降りてくる。

そしてエレベーターのドアが開いて、


「────!!」


あたしの心臓は、また跳ね上がることになった。


…驚いたの、一体今日だけで何度目だろう。


「なんで……」

「山田さん!?どうしてここにいるんですか!?」


こんな短時間で人の寿命を縮めるの、やめてほしい。


エレベーターから出てきたのは…

正真正銘、カボこと東山浩一郎だった。


しかもスーツ姿で、隣には外国人連れ。


「どうして、って──」

「お父さまが家に忘れ物してね、届けるのに山田さんもついてきてもらったの」


あたしの代わりにニッコリ笑って答えるお母さま。

あたしも、そうだと言うように首をブンブンと縦に振る。


…カボ、いつもよりずっと年上に見える。

いやに若いお母さまと並んでたら、カップルに見えてもおかしくない。


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