山田さん的非日常生活

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「………」


ああ、なんかこの衝撃、前にも受けた気が…。


会社の入り口の手前にて、早くも気を失いそうになる。


…そうだ。カボの家を初めて見た時と同じ心境だ。


東山家の会社は、車で飛ばして30分、街の中心の一角にあった。

そびえ立つ高層ビル。

ガラス張りの窓、窓、窓。一体何枚あるんだ、これ。

横が10枚で、ええと、縦が…高すぎて見えない。


今までカボのお父さまの会社の話を詳しく聞く機会なんてなかったけど。


東山家の会社は、お母さまによるとどうやら海外との貿易に関わる会社らしい。

…っていうか、ほんとに会社があったことにちょっとビックリだ。しかもこんな大きいの。

カボの家族と、この会社と。どう考えてもうまく結びつかないんですけど…。


だってカボの、あのお父さまが社長。


お父さまのタンクトップシャツ一枚、右手には草刈り鎌の姿を思い出したら、また気を失いそうになる。

だってどう考えてもあの見た目は、海の家を経営してるおじさんにしか見えなかったし。


そんな覚醒度の低いあたしを揺さぶって、お母さまが可愛らしい声で言った。


「ね?山田さん。なんだか一人で入りづらいでしょ?」

「確かに……」


エリートしか通さないバリアでも張られてるんじゃないだろうか。

一般庶民お断り!みたいな雰囲気がありありと感じられる。

あんな立派な家に住んでる社長夫人のお母さまでさえ、こんな大きな会社に乗り込むのはやっぱり気後れしちゃうんだな──


「でしょ!?正面の出入り口、自動ドアにしてくれればいいのに回転ドアだなんて……」

「………」

「回転ドアって一人だといまいち入るタイミングがつかめないのよね!!」


…ドアの問題ですか。


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