涙目で、あたしを上目遣いに見つめるお母さま。


「慶次郎さんが…」

「け…お、お父さまがどうかしたんですか!?」

「慶次郎さんが忘れ物しちゃって!!」


…忘れ、物。


「届けなきゃいけないんだけど…でもね、一人ぼっちで会社に行くの怖くって…」

「……」

「お願いっ!!ついてきてほしいの、山田さん!!」



…いや。

いやいやいやいや。


母校でもない自分とは関係ない高校の教室には乗り込んでこれて、なんで夫の会社は無理なんですか。


静まり返る教室。

目の前のこぼれんばかりに大きな瞳がキラキラと輝く。

…それにしてもやっぱり可愛いなお母さま!!


「…山田」


床に座り込んだまま呆然とするあたしの名を、先生が呼んだ。


「ハイ…」

「…なんか知らんが、ついて行ってやれ」






「…ハイ……」






今日はマフラーもいよいよ役立つ寒さ。

新しい月、2月の始まり。

そして早速こんな…身体的にも精神的にも衝撃的な出来事に遭遇するなんて、なんて幸先がいいんだろう。


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