「───、」
─違う。
ちょっとだけ…ほんのちょっとだけドキドキなんてするのは、いつものレジで向かい合う時よりずっと、隣との距離が近いから。
─だから。
「山田さんは、雅美にしますか?」
「結構です」
…インコのお下がりは、やめてください。
窓の外に流れるは、鮮やかなまでに光を浴びた、見慣れた景色たち。
車内のBGMは普段はめったに聞かないラジオで、スピーカーからはテンションの高い女DJがハガキを読み上げる声がひっきりなしに響いていた。
『次のお悩みは東京都にお住まいの、"ピンクな雅美"さんからいただきましたぁ〜!!』
「〜!?─ゲホっ!!」
「だ、大丈夫ですか山田さん!!」
思わずむせこんでしまった。
…すごいタイミングだよ東京都在住雅美。図ったとしか思えない。ってゆーかそのネーミングセンスはどうなの、雅美。
『えーとなになに、"最近よく、2人で出掛ける男の人がいるんです。彼から誘ってくれるんで、もしかして…なんて思ってたんですけど、いまいち彼の気持ちがわからなくて──"』
ラジオに混じって所々聞こえ始める、耳にしたことのないカボの鼻歌。
ゆるめられた口元が、車内に立ち込めるふわふわとした空気が…機嫌の良さを物語っている。
『"告白どころか、気のあるような言葉もないし…彼はあたしのこと、どう思ってるのかな?"…とのこと。うーん、難しいですね〜…』
先ほどむせたせいで、視界は涙で滲んだまま。
変わらぬ声色であっさりと読み上げられた文面は、人事だと思えなかった。
こうして当たり前のように助手席に乗ってしまったりしているけれど…
あたしはカボの彼女じゃない。
あたしたちは、付き合ってなんてないのだ。
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