山田さん的非日常生活

ボッタボッタと涙は落ちて、顔面は大洪水。

遠泳から今岸に帰り着いたばかりの選手のようだ。


「山田さん!!とりあえず顔を拭いて──」

「…はい」

「え?」

「〜だから返事っ!!もう一回付き合ってくださいって言ったでしょ!?」

「!!」


途端にパラパラと湧き起こる拍手。

慌てて周りを見渡す。

気がつくとお客さんが数名に、クラスメートの男子、立ち読みのおじさんまで。

みんながあたたか〜い目をして手を叩いている。

そしていつの間にか店に出てきていた店長まで。


「あ…あの、店長……」

「うん、いいんだ山田。何も言わなくて。あとはやっとくから、店は店長に任せて!!」

「え…え?」

「持ってけドロボーっ!!」


決めゼリフのようにそう言って、カボの背中をたたく店長。


「はいっ!!持っていきます!!」


…持ってけドロボウって。

しかもカボ、何元気よく返事してるんですか。


放心状態のあたしの手をカボが引き、逃避行さながらの勢いで二人、コンビニから走り去る。

入り口を出る瞬間、立ち読みをしていたおじさんが「ええもん見させてもろたわ〜」とでも言うように涙を拭うのが見えた。


訳が分からないまま、何が起こったのかもよくわからないまま、ただ手を引かれるままに走る。

ただ一つわかるのは、あたしの手を引くそのひとが。その背中が。


…あたしが会いたくて仕方がなかった、カボのものであるということ。


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