「────」
息を、呑んだ。
幻聴だって思った。
そんなわけない。
そんなことあるはずがない。
耳に覚えのありすぎるこの声が、すぐ近くで聞こえるなんて。
あたしの大好きなそのひとが、
「う…そ……」
すぐ目の前に、いるなんて。
たまった涙が、筋となって頬を伝った。
ぼやけてる世界。
幻聴だけじゃなくて、幻覚まで見えてるのかなぁ。
「なん…で……?」
ねぇ、カボ。
いっつもカボはあたしの予想外の行動ばっかりで、いっつもあたしの度肝を抜いて。
でも今日、この瞬間ほど驚いたことはないよ。
「山田さん」
「…はい……」
「今日は改めて、お伝えしたいことがあって」
…だって、人のバイト先にアポなしで乗り込んできて。しかも。
「僕ともう一度、お付き合いしてください」
バカみたいにでっかいバラの花束抱えて、交際を申し込む男なんていないよ。
映画とか漫画の世界にしかいないよ、そんな人、
「─────っ!!」
…カボ、以外には。
.



