山田さん的非日常生活

時計を見ると、短針は10のところ。

長針は12のところをまたいでいて。


お決まりの時間。

決まって買っていくのは、かぼちゃプリンで。



…やっぱり、カボは来なかった。



「…あれ?山田?」


俯いたあたしを不思議そうな顔で見つめるクラスメート。


全部全部、過去の間違った部分だけナシにできたらいいのに。

もう一回やり直せたらいいのに。

もう一回…何度でもやり直せるなら、あたしも怖がらずに何だって言える気がするのに。


でも実際は失敗ばっかりで、後悔ばっかりで。

成功した綺麗な過去だけを、残しておくことはできないんだ。


どうやってつなぎ止めたらいいのかわからない。


うまく言葉にする勇気がない。


うまく笑える自信がない。


ほんとの気持ちを、こんなにも大きな気持ちを、

どうやって伝えればいいのかわからないよ。



どうしてあたしはいっつも。




"山田さん"




カボを傷つけてばっかりなんだろう。

カボの喜ぶ言葉ひとつ、素直に言えないんだろう。



「…あっ!そうだ山田、言い忘れてたけど」

「……え?」

「山田が作ったあのケーキ、うまかったよ」


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