知らない人や怪しい人についていっちゃいけません、だなんて小さい頃に幾度となく教え込まれたけれど…

お母さん。先立つ不幸をお許しください。


ゴツくて大きなそのカボ号(たった今命名)の扉をため息混じりに引っ張ると、その助手席に乗り込んだ。


「…こっからどのくらいかかるの、カボ?」

「山田さん、だからカボじゃなくて!僕は東山浩一郎です」

そう突っかかるように言って、カボことヒガシヤマコウイチロウは拗ねたように頬を膨らます。

全くもって、可愛くない。

しかもヒガシヤマコウイチロウ、とかなんて期待外れな名前。普通だし。しかも若干、かっこいいし。


『カボ山 南瓜』


…とかだったら大ウケしたのに。もういっそ尊敬したのに。


「あたしの中で、もうカボはカボだもん」

「でも変です、僕が山田さんを雅美って呼ぶのと一緒じゃないですか。」

「…誰よそれ」

「昔飼ってたインコの名前です」

「………。」


窓から差し込む黄色い光が、カボの横顔を浮き彫りにする。

黄金の髪は、サバンナの王様ライオンみたい。

その眩しさに目を細めつつ、スラッと伸びた高い鼻筋に一瞬だけ…見とれてしまった。


「…何かついてますか?山田さん」

「えっ!?いや、あの、」


隣の彼の横顔があたしの視線に感づいていたと知り、慌てて…「鼻がついてます」、なんてひどく間抜けな台詞を吐いた。


「……鼻が。」

「…ええ!鼻が!!」


ワンテンポ空いた不自然な沈黙に、自ら墓石の下に潜り込みたくなる。


…違う。違うんです。

運転している人って、いつもより三割増しでカッコ良く見えるから。


…ってゆーか、なんでカボ相手にあたしがあたふたさせられなきゃいけないのよ。

ムスッと膨れるあたしのの隣。クスリと笑って、ハンドルを右へときるカボ。


「いいです、別に」

「……は?」

「カボ。山田さんがつけてくれたなら、それで」


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