山田さん的非日常生活

では説明させていただきますね、と笑顔を浮かべる店員のおじさま。

鼻の下のチョビヒゲが口に合わせてふにゃっと曲がる。


「こちら右手から、鴨肉をワイン蒸したもの、お次がイカとプチキャベツのマリネ、そしてお次がカボチャの──」
「!!」


ビクっといきなり跳ねたカボ。驚いて説明をすっ飛ばす店員のおじさま。


「…大丈夫ですか?お客様」

「あ、いえ!ちょっと名前を呼ばれたのかと思いまして…」


恥ずかしそうに笑うカボに、思わず吹き出してしまいそうになった。

カボチャっていう単語に過剰反応しすぎだよ。たしかにいっつもあたしがカボって呼んでるかもしんないけどさぁ。


でもそのおかげでちょっと肩の力が抜けた。

シャンメリーの後に口にした前菜。

全部それぞれすごく凝っていて、その中でも"カボチャとイクラのなんとか"(名前忘れた)があたしは一番好きだった。


「僕がまだ小さい頃に、両親にこの店に連れてきてもらったことがあって」


カボはそう言って、懐かしそうに店内を見渡す。

落ち着いたオルゴール調の音楽。ホテルの最上階みたいなきらびやかな高級感じゃなく、また違った暖かみを持った品の良さが窺える。


「とても思い入れがあったので、来たかったんです。山田さんと」

「…あ…りがと」


なんだか照れくさくて、照れ隠しにシャンメリーに手を伸ばす。


…クリスマス、なんだなぁ。

シャンメリー越しの窓の景色を見て、今さら改めてそんなことを思った。


好きな人と過ごすって、なんかすごい。クリスマスだけどクリスマスじゃないみたい。

だって今まで十数回クリスマスを越してきたけど、こんなこそばゆさを味わったこと無かったから。

こそばゆくて、でも嬉しいっていう。

そんな幸せな矛盾は初めてだから。


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