山田さん的非日常生活

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レストランは道の奥まったところにあった。

フランスの街角にあるような白い建物、控えめに照明を落とされた店内。

あたしたちが中に入ると、黒い長エプロンを腰に巻いたダンディーなおじさまが出迎えてくれた。


「東山様のお席はあちらの窓際にご用意させていただいております」


店内にはもう何組かのカップルがいて、各席にはキャンドルの火が灯っている。

その火がゆらゆらと左右に揺れて、中心に飾られた大きなツリーを照らしていた。


…雰囲気が、まるで外国みたいだ。

カボ、一体どこでこんなお店があること知ったんだろう。いっつも寄り道するのはマックでマックシェイク、が定番だったのに。


目の前のグラスに注がれるシャンメリー。

小さな気泡が黄金色の中を漂う。


「乾杯でもしましょうか、山田さん」


そう言うと、カボはニッコリと自分のグラスを軽く持ち上げる。

あたしも慌ててそれに倣うと、グラスの口と口を合わせた。


「乾杯」


チン、と鈴のような音が鳴る。

少しだけ口に含むと、独特の深みがある味がじわっと舌に染み込んだ。

高校生のあたしに合わせてノンアルコール、けど酔っぱらいそうな、そんな味。

チラッとカボを見る。

ちょうどカボもこっちを見て、目が合うと優しく目もとを崩した。


「………」


…な、なんか。


背中とか、足の裏とか、首筋がこそばゆくて仕方ない。

こういう恋人のシチュエーションっていうか、"いかにも"ってかんじ、慣れてないんだもん。

いい雰囲気の店で、見つめ合ってワイングラスで乾杯とか。…ちょ、もうなんかすでに無理だ。キャパオーバーだ。うまく言えないけど、頭ん中がわーってなる。

一人ソワソワしていると、シンプルな白い長皿が運ばれてきた。

ちょっとずつ乗せられた、彩りの良い料理。


「こちら、前菜の四種盛りでございます」


…ほほう、これがかの有名な"前菜"という輩ですか。いきなりどーんとメインが出てこないパターンって、親戚のお姉ちゃんの結婚式以来味わったことないよ。

前菜っていう語だけですでに緊張してしまう自分に悲しくなる。


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