山田さん的非日常生活

「に…がてじゃないから」

「え?」

「〜だ、だから!苦手じゃないから別にいーよって言ってんの!!」


あたしの大声に道行く人が振り返る。

カボはとても驚いた顔をして、それから、とても嬉しそうに笑った。


「良かった」

「………」

「僕、山田さんはてっきり苦手なのかと思いました……魚介類」


「…………は!?」


いや…、いやあの、魚介類て。


「か…カボ?一体何の話…?」

「今日のディナーの予約、魚介類コースで取っちゃったんで」

「………」

「お肉のコースもあったんですけど、山田さんがうちに来てくれた時もステーキだったのでカブらない方がいいかと」


…知らねぇよ。

どっちでもいいよ。肉でも魚でもどっちでも好きですよ!!

いつの間に手を繋ぐ話からディナーのコース選択の話にトリップしてるんですか。


にっこり満足そうに歩くカボ。もうスピードは早足じゃない。

隣に並んだ、あたしの左手とカボの右手。

触れそうで触れない、その間に流れる冷たい空気に指先が冷える。


あたしたちより前を行く数組のカップルはみんながみんなピッタリと寄り添って、その手と手は暖かそうに組み合わさっている。


カボのバカ。

カボのバカ。


…あたしの、大バカ。


手を握られたあのまま、あたしも握り返せばよかった。

今さら握ることもできず、ただ平行に並んで映画館を目指す。

隣を歩くカボを盗み見て、聞こえないようにため息をついた。












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