山田さん的非日常生活

「何かあげるわけ?」


あたしの手から奪った卵をバーコードリーダーで読み取りながら、梢さんが言った。


「……とりあえず…ケーキ、作ろうと思って」

「ふうん」


思いがけないアッサリした返しに拍子抜けする。

てっきりイヤミ言われるか、つっかかってくるかと思ったのに。

梢さんの余裕オーラにぽかんと突っ立っていると、梢さんがフッと口元を緩めた。


「それだけ?…とか言いたそうな顔ね」

「え……だって…」


あたしがカボと会うの、嫌じゃないんだろうか。

梢さんは卵の入った袋をあたしに突き出すと、綺麗に作り込まれた笑顔で笑った。


「だってその次の日は、あたしが浩一郎さんと過ごすもの」


「……え?」


一瞬、言われたことが理解できなかった。

いつの間にかあたしの後ろに並んでいたお客さんに、レジの前をとって替わられる。

にっこりと見本みたいな営業スマイルを浮かべながら接客をする梢さんを、あたしはただ呆然と見ていた。


あたしの、次の日?

梢さんが、カボと過ごす?


"クリスマスに、告白しようと思ってるんです"


次の日。…クリスマス。


…なんで?

なんでクリスマスに別の女の子…しかも梢さんと約束なんてしちゃってんの?

楽しそうに街を並んで歩く、二人の横顔を思い出す。


"24日にしましょうか"


"山田さんに早く会いたいので"



「やーまだっ!!…て、どしたの?」


フラフラとコンビニを出ると、自動ドアのすぐそばに足立がいた。

あたしの家にいたまんまのスウェットに上着を羽織った格好。足元はキティーちゃんのスリッパサンダルだ。


「足立…?なんで…?」

「いやー、おばさんが夕飯一緒にどうぞってゆってくれたんだけどさぁ。ピザが届くまで暇だったから。あと噂の美女はどんなもんか見たくって」


ガラス戸の外から梢さんを覗いて、足立はほう、とため息をつく。


「いや〜…あれはたしかに絶世の美女だわな。マックの時は一瞬しか見えなかったけど」


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