でもその理由は、驚くほどすぐに判明した。



「ぎゃまださん…おひざじぶりです」

五日目。ピッタリ夜10時。


…てか、ぎゃまださんって誰だよ。


目の前のカボはそれはそれは悲惨な有り様で、ムンクの叫びの図をさらにひん曲げたような真っ青な顔にマスクがぴとり、貼り付いていた。


「…風邪ですか」

「どうもそのようです」


それでもグズグズと啜る鼻先だけは、赤かった。
あまりにも悲惨で、悲惨すぎて心配よりも笑ってしまった。

心配よりも笑ってしまって、笑ってしまうよりも安心、してしまって。


「…風邪だから、来なかったの」


安心より…嬉しい気持ちが、大きくて。


…てか、嬉しいってなんだよ。


おかしい。ほんとおかしい、あたし。



…だって、めちゃくちゃ嬉しいとか、思っちゃってるんだもん。

有り得ない。



ズビ、とまた鼻を啜る音。

笑って、ポケットティッシュを手渡した。


「…出歩かない方がいいと思うんだけど」

「はい、でも山田さんに大事な報告があって」


ティッシュを一通り鼻に押し付けた後、カボは急に真剣な顔であたしに向き直る。

やっぱりこうして見ると、彼はなかなかの男前だと思った。顔が青いのと、鼻が赤いのと、髪が金色すぎるのを差し引いても。


「山田さん…僕、」

「…えと、あの、あたし一応バイト中だし…そういう話は、」

「ほうれん草だったんです」

「…は?」


思わず頭から抜けたような、すっとんきょうな声が出た。


…ホウレンソウ?


「前世占い。違う占いで見てもらったら、なんとほうれん草だったんです!僕!」


キラキラと目を輝かせて雄弁をふるう彼に、爪先から頭のてっぺんまで全てをフル活用してため息をついてやりたくなった。

…てっきり告白だと、身構えた自分を呪ってやりたい。

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